1690回 会長挨拶

マイナス金利・超低金利の影響で、金融機関の不動産融資は、バブル期を超えて過去最高に達したそうです。その結果、2つの不動産バブルが起きました。1つは都市圏、特に東京都心部および湾岸エリアでのマンションバブルです。もう1つは、地方で起きたアパート経営バブルです。
2015年1月から相続税が改正され、相続税対策として注目されたのが「アパート経営」です。賃貸物件は、相続税評価額が30%軽減され、土地も20%軽減されます。相続税を大きく軽減できる「アパート経営」は、非常に魅力的に見えます。相続税対策に有効で、極めて低い金利で建築資金が借りられ、賃借人の確保も家賃保証でリスクが軽減されるなど、相続税対策に不安を抱える多くの人にアピールし「アパート経営」は急増しました。そして、「アパート経営」バブルの決め手となったのが、「一括借り上げシステム」です。「一括借り上げシステム」というのは、アパートを建築するよう勧誘した建設業者が、一定期間そのアパートを借り上げ、実際に賃借人が入居しているかどうかにかかわらず、家賃分の収入を保証するシステム、いわゆるサブリースです。
アパートの立地条件によっては、経営がうまくいっている成功例も決して少なくありませんが、アパートの急増で、平均家賃も多くの都市で減少傾向にあります。松本市の場合、2016年は2010年に比べ、20%減少しています。空室率は年々上昇しており、長野県は27.7%で全国第3位です。確かに、借り上げ期間は30年など長期にわたりますが、保証される家賃の固定期間は、建築当初から10年間で、その後1年ないし2年ごとに状況を見て改定する、つまり値下げする、という契約内容になっていることが多く、これを知らずに契約するケースが多発し、訴訟に発展するケースも少なくありません。多くの家主は、金融機関から資金を借りて、家賃収入を元に返済する計画ですが、その計画を立てる建設業者は、驚くべきことに、全借り上げ期間、30年にわたって新築時の家賃を維持する前提で、収支計画を立てます。このずさんな計画を基にすれば「ローンの返済分を差し引いても毎月数十万円手元に残る」という説明がまかり通ります。
さらに問題なのは、資金を貸し付ける金融機関の姿勢です。30年間家賃が変わらない、という前提で作られた収支計画に異論を挟むことなく、融資を実行しています。本来であれば、ずさんな事業計画に対して、年間数%の家賃の下落を織り込んで、返済計画についても指摘を行うべきです。しかし、形式的審査のみで融資しているという現状が、被害を拡大する一因になっています。融資先が減り続けている地方の金融機関にとって、アパート経営は、数千万円単位の融資実績につながる有望な融資先です。

建設業者にしろ、金融機関にしろ、法的問題はないかもしれませんが、プロとしての職業倫理が問われる、と思います。「儲かりさえすれば、何をやっても許される」と言う時代は、とっくに終わりました。真の「お客様ファースト」とは何なのか、もう一度よく考えてもらいたいと思います。アパート経営バブルがはじけた時、空室率は上昇、家賃はさらに減少し、金融機関の地域からの信頼は地に堕ちてしまいます。皆さんも甘い誘惑にはくれぐれもご注意下さい。

DSC04705


Last Update:2017年03月14日